太宰治記念館「斜陽館」

 桜の蕾が色付いたと思っていたら、
この辺では、一番早く咲く雲祥寺さんの境内の桜が、
今日から咲き始めました。
陽光を浴びながら、一輪二輪と咲く姿を見ると、
漸く春が来たことを実感します。

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 一個の貧乏文士に過ぎない私は、観瀾山の桜の花や、
また津軽の友人たちの愛情に就いてだけ語つてゐる
はうが、
どうやら無難のやうである。

 その前日には西風が強く吹いて、N君の家の戸障子をゆすぶり、
「蟹田つてのは、風の町だね。」と私は、れいの独り合点の卓説を
吐いたりなどしてゐたものだが、けふの蟹田町は、
前夜の私の暴論を忍び笑ふかのやうな、おだやかな上天気である。
そよとの風も無い。観瀾山の桜は、いまが最盛期らしい。
静かに、淡く咲いてゐる。爛漫といふ形容は、当つてゐない。
花弁も薄くすきとほるやうで、心細く、いかにも雪に洗はれて
咲いたといふ感じである。違つた種類の桜かも知れないと思はせる程である。
ノヴアリスの青い花も、こんな花を空想して言つたのではあるまいかと
思はせるほど、幽かな花だ。私たちは桜花の下の芝生にあぐらをかいて坐つて、
重箱をひろげた。これは、やはり、N君の奥さんのお料理である。
他に、蟹とシヤコが、大きい竹の籠に一ぱい。それから、ビール。
私はいやしく見られない程度に、シヤコの皮をむき、蟹の脚をしやぶり、
重箱のお料理にも箸をつけた。重箱のお料理の中では、
ヤリイカの胴にヤリイカの透明な卵をぎゆうぎゆうつめ込んで、
そのままお醤油の附焼きにして輪切りにしてあつたのが、私にはひどくおいしかつた。
                                太宰 治『津輕』

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梅が咲き、菜の花が咲き、ツクシも顔を出しました。





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爽やかな青空が見えています。いよいよ春らしくなり、桜の開花を待つばかりです。
年度始めなので、新人研修やら何やらでご来館者が少ない時期ではあります。
そんな中、仕事の合間を縫って「内職」です!
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先日の大相撲春場所において、幕内最高優勝を勝ち取った地元の「尊富士」の凱旋パレードが決定し、お祝いムードが高まっているのです。
金木のシンボル・太宰治記念館「斜陽館」の前もコースになっているため、内職に励んでいるわけです。(もちろん仕事の合間ですよ)
当館ではオリジナル缶バッジを販売しているのですが、これもまたオリジナル缶バッジならぬ缶マグネットを試作してみました。応援グッズなので非売品ですが・・・
かわいい、似ている~と定評があるのです!
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凱旋パレード、楽しみですね。


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 お天気が続いていますが、朝夕は
まだ肌寒く、寒暖差が10℃程です。
陽の光を浴びて、桜の蕾がほころんできました。
今年も、桜は早いようです。
ひと昔前は、ゴールデンウィークと同時期に咲いたものですが、
近頃は、2週間程開花が早くなりました。

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 私が真面目な顔になつてしまつたら、こんどは、たけのはうで笑ひ、立ち上つて、
竜神様の桜でも見に行くか。どう?」と私を誘つた。
「ああ、行かう。」
 私は、たけの後について掛小屋のうしろの砂山に登つた。
砂山には、スミレが咲いてゐた。背の低い藤の蔓も、這ひ拡がつてゐる。
たけは黙つてのぼつて行く。私も何も言はず、ぶらぶら歩いてついて行つた。
砂山を登り切つて、だらだら降りると竜神様の森があつて、
その森の小路のところどころに八重桜が咲いてゐる。
たけは、突然、ぐいと片手をのばして八重桜の小枝を折り取つて、
歩きながらその枝の花をむしつて地べたに投げ捨て、
それから立ちどまつて、勢ひよく私のはうに向き直り、
にはかに、堰を切つたみたいに能弁になつた。

「久し振りだなあ。はじめは、わからなかつた。
金木の津島と、うちの子供は言つたが、まさかと思つた。
まさか、来てくれるとは思はなかつた。小屋から出てお前の顔を見ても、
わからなかつた。修治だ、と言はれて、あれ、と思つたら、
それから、口がきけなくなつた。運動会も何も見えなくなつた。
三十年ちかく、たけはお前に逢ひたくて、逢へるかな、
逢へないかな、とそればかり考へて暮してゐたのを、
こんなにちやんと大人になつて、たけを見たくて、
はるばると小泊までたづねて来てくれたかと思ふと、
ありがたいのだか、うれしいのだか、かなしいのだか、
そんな事は、どうでもいいぢや、まあ、よく来たなあ、
お前の家に奉公に行つた時には、お前は、ぱたぱた歩いてはころび、
ぱたぱた歩いてはころび、まだよく歩けなくて、ごはんの時には
茶碗を持つてあちこち歩きまはつて、
くらの石段の下でごはんを食べるのが一ばん好きで、たけに昔噺語らせて、
たけの顔をとつくと見ながら一匙づつ養はせて、手かずもかかつたが、
ごくてなう、それがこんなにおとなになつて、みな夢のやうだ。
金木へも、たまに行つたが、金木のまちを歩きながら、
もしやお前がその辺に遊んでゐないかと、お前と同じ年頃の男の子供を
ひとりひとり見て歩いたものだ。よく来たなあ。」と一語、一語、
言ふたびごとに、手にしてゐる桜の小枝の花を夢中で、
むしり取つては捨て、むしり取つては捨ててゐる。
                         太宰 治『津輕』






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