暑中お見舞い申し上げます。

 こちらも暑い日が続いておりますが、
如何お過ごしでしょうか。
暑さ厳しき折、どうぞご自愛くださいますよう。

 七月下旬、盛夏。
夏休みに入り、館内は、ご家族連れの
お客様で賑わっています。

 暑いですね。ことしは特に暑いようですね。実に暑い。
こんなに暑いのに、わざわざこんな田舎にまでおいで下さって、
本当に恐縮に思うのですが、さて、私には何一つ話題が無い。
上衣をお脱ぎになって下さい。どうぞ。こんな暑いのに外を
歩くのはつらいものです。パラソルをさして歩くと、
少したすかるかも知れませんが、男がパラソルをさして
歩いている姿は、あまり見かけませんね。(中略)
 修業という事は、天才に到る方法ではなくて、
若い頃の天稟のものを、いつまでも持ち堪へる為にこそ、
必要なのです。退歩しないというのは、これはよほどの努力です。
ある程度の高さを、いつまでも変らずに持ちつづけている芸術家は
よほどの奴です。たいていの人は年齢と共に退歩する。
としをとると自然に芸術が立派になって来る、なんてのは嘘ですね。
人一倍の修業をしなけれあ、どんな天才だって落ちてしまいます。
いちど落ちたら、それっきりです。
 変らないという事、その事だけでも、並たいていのものじゃないんだ。
いわんや、芸の上の進歩とか、大飛躍とかいうものは、
ほとんど製作者自身には考えられぬくらいのおそろしいもので、
それこそ天意を待つより他に仕方のないものだ。
紙一重のわずかな進歩だって、どうして、どうして。
自分では絶えず工夫して進んでいるつもりでも、はたからはまず、
現状維持くらいにしか見えないものです。
製作の経験も何もない野次馬たちが、どうもあの作家には
飛躍が無い、十年一日の如しだね、なんて生意気な事を言っていますが、
その十年一日が、どれだけの修業に依って持ち堪えられているものか
まるでご存じがないのです。権威ある批評をしようと思ったら、
まず、ご自分でも或る程度まで製作の苦労をなめてみる事ですね。
 どうも暑いですね。こんな暑い日にはいっそドテラでも着てみたら、
どうかしら。かえって涼しいかも知れない。なにしろ暑い。
                       太宰 治『炎天汗談』

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館内は、和洋折衷のつくりです。
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涼し気な夏椿。


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