秋晴れが続いています。
雲一つない青空。
紅葉は、まだですが絶好の行楽日和です。


ただ今、庭に、庭師さんが入っていて剪定中です。
東京の家は爆弾でこわされ、甲府 市の妻の実家に移転したが、
この家が、こんどは焼夷弾 でまるやけになったので、
私と妻と五歳の女児と二歳の男児と四人が、
津軽 の私の生れた家に行かざるを得なくなった。(中略)
そうして、ほどなくあの、ラジオの御放送である。
長兄はその翌る日から、庭の草むしりをはじめた。私も手伝った。
「わかい頃には、」と兄は草をむしりながら、
「庭に草のぼうぼうと生 えているのも趣 きがあるとも思ったものだが、
としをとって来ると、一本の草でも気になっていけない。」
それでは私なども、まだこれでも、若いのであろうか。
草ぼうぼうの廃園は、きらいでない。
「しかし、これくらいの庭でも、」と兄は、
ひとりごとのように低く言いつづける。
「いつも綺麗 にして置こうと思えば、庭師を一日もかかさず
入れていなければならない。
それにまた、庭木の雪がこいが、たいへんだ。」
「やっかいなものですね。」と居候 の弟は、おっかなびっくり合槌 を打つ。
兄は真面目 に、
「昔は出来たのだが、いまは人手も無いし、何せ爆弾騒ぎで、
庭師どころじゃなかった。この庭もこれで、出鱈目 の庭ではないのだ。」
「そうでしょうね。」弟には、庭の趣味があまりない。
草ぼうぼうの廃園なんかを、美しいと思って眺 める野蛮人だ。
兄はそれからこの庭の何流に属しているのか、
その流儀はどこから起って、そうしてどこに伝って、
どうして津軽の国にはいって来たかを説明して聞かせて、
自然に話は利休 の事に移って行った。
太宰 治『庭』
雲一つない青空。
紅葉は、まだですが絶好の行楽日和です。


ただ今、庭に、庭師さんが入っていて剪定中です。
日毎に綺麗になり、風が通り抜けていきます。
東京の家は爆弾でこわされ、
この家が、こんどは
私と妻と五歳の女児と二歳の男児と四人が、
そうして、ほどなくあの、ラジオの御放送である。
長兄はその翌る日から、庭の草むしりをはじめた。私も手伝った。
「わかい頃には、」と兄は草をむしりながら、
「庭に草のぼうぼうと
としをとって来ると、一本の草でも気になっていけない。」
それでは私なども、まだこれでも、若いのであろうか。
草ぼうぼうの廃園は、きらいでない。
「しかし、これくらいの庭でも、」と兄は、
ひとりごとのように低く言いつづける。
「いつも
入れていなければならない。
それにまた、庭木の雪がこいが、たいへんだ。」
「やっかいなものですね。」と
兄は
「昔は出来たのだが、いまは人手も無いし、何せ爆弾騒ぎで、
庭師どころじゃなかった。この庭もこれで、
「そうでしょうね。」弟には、庭の趣味があまりない。
草ぼうぼうの廃園なんかを、美しいと思って
兄はそれからこの庭の何流に属しているのか、
その流儀はどこから起って、そうしてどこに伝って、
どうして津軽の国にはいって来たかを説明して聞かせて、
自然に話は
太宰 治『庭』
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