暖かくなったり、寒くなったり、まだまだ気温が
安定しませんが、陽光が強くなり一輪ずつ花が咲き、
寒暖差の中にも、春の訪れを日々感じるようになりました。
今週は気温が上がる予報なので、桜の開花も、もう間もなくです。

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(野中)(菊代のほうに背を向け、外の景色を眺めながら)もう、すっかり春だ。
津軽の春は、ドカンと一時いっときにやって来るね。
(菊代)(しんみり)ほんとうに。ホップ、ステップ、エンド、ジャンプなんて
飛び方でなくて、ほんのワンステップで、からりと春になってしまうのねえ。
あんなに深く積っていた雪も、あっと思うまもなく消えてしまって、
ほんとうに不思議で、おそろしいくらいだったわ。あたしは、もう十年も
津軽から離れていたので、津軽の春はワンステップでやって来るという事を、
すっかり忘れていて、あんなに野山一めんに深く積っている雪がみんな消えて
しまうのには、五月いっぱいかかるのじゃないかしらと思っていたの。
それが、まあ、ねえ、消えはじめたと思ったら、十日と経たないうちに、
綺麗に消えてしまったじゃないの。四月のはじめに、こんな、春の青草を
見る事が出来るなんて、思いも寄らなかったわ。
(野中)(相変らず外の景色を眺めながら)青草? しかし、雪の下から
現われたのは青草だけじゃないんだ。ごらん、もう一面の落葉だ。
去年の秋に散って落ちた枯葉が、そのまんま、また雪の下から現われて来た。
意味ないね、この落葉は。(ひくく笑う)永い冬の間、昼も夜も、
雪の下積になって我慢して、いったい何を待っていたのだろう。
ぞっとするね。雪が消えて、こんなきたならしい姿を現わしたところで、
生きかえるわけはないんだし、これはこのまま腐って行くだけなんだ。
(菊代のほうに向き直り、ガラス戸に背をもたせかけ、笑いながら
冗談みたいな口調で)めぐりきたれる春も、このくたびれ切った枯葉たちには、
無意味だ。なんのために雪の下で永い間、辛抱していたのだろう。
雪が消えたところで、この枯葉たちは、どうにもなりやしないんだ。
ナンセンス、というものだ。
                          太宰 治『春の枯葉』


 桜の季節には、やはり、桜餅とうぐいす餅。
桜花の下で、いただきたいと思います。